fc2ブログ

丸尾焼窯元日記

熊本県天草市にある丸尾焼という窯元の窯元日記です。陶芸に興味のある方はチェックすると面白いかも・

2012年02月 | ARCHIVE-SELECT | 2012年04月

| PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

小山薫堂氏・安西水丸氏来窯。2012年3月14日

 一気に日中は春めいてきたが、その分夜の冷え方が厳しい。工房では欠伸をする人達を多く見かける。長閑な風景だ。。。工房は忙しさの度合いが増してきていて、これからあと半月間は怒濤のような日が続いていく。この時期の工房は活気に満ちているが、私は比較的冷静のこの状況を眺められるようになりつつある。スタッフの出来高がかなり安定してきたので、細部の仕事をするよりも、むしろ全体を俯瞰していく方が出来高が高くなるからだ。こういった仕事の流れの時は、あまりやかましく結うよりも出来るだけ仕事がやりやすい環境を作ることが重要だ。今日は窯詰めがあっていて、工房は比較的人が少ない状況。私は工房の机に向かってこれからの算段を色々考えているところだ。恐らくこれから先は作品の出来高が上がってくるだろう。出来高が上がってくると、それをどうするのかという課題が出てくる。何を幾つ創って、どうやって販売を広げていくかがポイントになるだろう。勿論何を作るかも重要な事で、それに関しては着々と準備を進めている。長い時間陶芸を続けていると、今までに何を作ってきたかを忘れてしまったりしている。忘却の彼方に作品があったりするのだが、忘れられた作品の中に可能性を秘めたものが眠っていたりする。

 以前工房にいたI君が、工房にある過去の作品の見本を見て、ありとあらゆることを遣ってますよね。と言ったことがあるが、その言葉は大袈裟にしても私の代になっておよそ30年間で作った作品の種類は、とんでも無いことになると思う。そしてその全てが我々の手で作られているのだから、やはり工芸という仕事は捨てたものではないと思う。勿論、その背景には粘土という素晴らしい素材があるわけで、可塑性に優れた原材料があるが故に、我々の祖先は粘土を素材として様々なものを作ってきたのだと思う。1年という年月でも長いと思ったり短いと思ったりするのだが、この30年間を思えば、沢山の種類の作品を作り、そして作るのを止めたりを繰り返している。工房を眺めると、若い人達が着実に育ちつつあるので、これから先の私の役割は、考える事であったり、物事を見つめることだったりが主な仕事になってくるように思う。あまり、ベテランの風を吹かせすぎると、若い人達のやる気が失せてしまい、結果としてワンマンな工房になるのではないか。そういうことだけはしたくないと思うので、あと少しの時間が経てば、私は子供達に仕事場の責任を譲ろうと考え始めている。

 今年でさえ若い彼らは大きな進歩を見せているが、来年になれば更に進歩しているだろう。あと少し頑張れば工房はもっと多彩な作品で満たされるようになると思う。そうなれば、彼らの力のみで工房も上手く回るようになるだろうし、若い力が結集されて、今よりもずっと魅力的な仕事場になると思う。そこまで達するのにもう長い時間はいらないような気配が漂っているので、私は要所だけを押さえておけば良くなるだろう。力があるうちに世代交代することが理想的なことだと、私は若い時から考えていた。私は先代が別の仕事をしていたので、何から何まで自分の力で道を切り開いていかなければならなかった。この工房にあるものは全て自分たちが作ったものでもある。逆に考えれば、余所が3代掛けて作り上げることを、私は一代で仕上げたのだと思っている。工房は170年以上続いているが・・・今の丸尾焼は全て私の代になって作ったものだ。次世時代は3人の息子達が今の工房を使って仕事をするわけだから、私が工房を引き継いだ時よりも恐らく安定的に仕事が出来ると思う。彼らが力を合わせてこの仕事を続けると、素晴らしい工房になると私は確信している。

 小山薫堂氏が安西水丸氏を伴って工房を訪れた。私は安西氏は初対面だったが、陶磁器に関しての博識振りに驚いた。話をしたのは15分くらいだろうか。それでも安西氏が陶芸に対して、並々ならぬ見識があることが判った。一つの仕事を30年以上続けていると、知識自体は膨大なものになる。私自身陶芸に関しての知識はかなりのものだと思うが、それ以外のことについては殆ど知らないと言い切っても構わないだろう。安西氏はイラストレーターとエッセイストという二つの顔を持っている。イラストレーターはインナーマインドの要素が強い仕事かも知れないが、エッセイストという仕事は、様々な事に興味がなければ、続けることが出来ない行為かも知れない。一般的に言えば、我々は知識の総量で人を考える場合が多い。そういう面で考えても、安西氏は相当深みのあるという印象だった。小山薫堂氏は最近天草のことを色々なところで書いていて、天草を外から応援してくれている。天草は発進力の低いところだから、彼のような人が天草を発信することによって計り知れない恩恵を受けていると思う。おかげで私は安西氏と話をすることが出来た。素晴らしい人に会うことは人生の幸の一番かも知れない。そんなことを考えた1日だった。
スポンサーサイト



| 陶芸 | 18:42 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

| PAGE-SELECT | NEXT